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THE TOKYO BRANDvol.3 agris

求愛するデザイナー
「agris」鷺森アグリさんの日常

変わりゆくライフスタイルや体型などを意識したファッションの新しい価値観を提案するブランドが増え、買う側の気持ちに寄り添うTOKYO BRANDが増えている。そのデザイナーやディレクターに、ブランドの立ち上げストーリーやファッションへの愛を聞くこの連載。第3回でご紹介するのは、大胆さと繊細さを併せ持つ個性的なデザインを生み出し続ける、「agris(アグリス)」デザイナーの鷺森アグリさん。

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やりたいことをするために、早く大人になりたかった

自分の着たいものを作るのでもなく、社会のニーズに応えるのでもない。「愛しい誰か」のための服を作る。それがデザイナー、鷺森アグリさんの今のデザインスタイル。その第一弾が、アフリカの先住民を被写体とした美しい色彩の写真が話題となっている写真家、ヨシダナギさんに捧げる服。どんな人生が、彼女をそんなデザインスタイルへと駆り立てたのだろう。

ファッションビジネスを手がける母の元に育った鷺森さん、自身は幼い頃から舞台に立っていたものの、演者よりも、演者の完成度を最高に導く、裏方の舞台衣装を作る人に憧れていたという。「母には、ファッション業界は大変だからと猛反対されていましたが、私はデザイナーになると決めていました」。18歳で家を出て、自分で働きながら生活し、学校に通った。「ファッション業界の大変さや仕事としてのリアルな面をずっと見ていたからこそ、学校に入ってからは逆に、ファッションてこんなに自由に捉えていいの!と驚きました」。さまざまなデザインコンテストに応募し、その賞金を学費や作品の製作に充てていたという鷺森さん。「ちょっと異質な学生だったでしょうね。でも私にとっては、自分でお金を稼いで自分のやりたいことをするっていうのはとても自由で自然なことだったし、それが大人になることでとてもいい経験でした」。

学校を卒業すると同時にブランドを立ち上げ、センセーショナルにコレクションデビューを果たした。「若い人から時折相談を受けますが、人には勧めません(笑)。若気の至りですね。でも当時は、まだ自分のスタイルが確立していないことがわかっていたので、その状態で力のあるデザイナーのメゾンに入ってしまうとその人の色に染まってしまう、そのことが怖かったんです。今振り返ると荒削りで、見ていてもヒリヒリするような感じがありますね(笑)、それでも前に進んでよかったと思う。そのおかげで、すべてを自分でチョイスする訓練ができました」。

ヨシダナギさん撮影のポートレート。今季のアグリスに身を包んで。

ヨシダナギさんとのアフリカ渡航では、ヒンバ族の女性と同じ格好で撮影に挑むというヨシダナギさんにならい、鷺森さんも部族の姿に身を包んだ。

自己紹介の10年を経て、求愛の道へ

2016年、「agris」という名前でブランドを再スタートさせた。「AGURI SAGIMORIはまさに私自身の名前をそのまま冠したブランド。自己表現の場であり、自己紹介をしてきた10年近くでした。でも、自分を知ってもらわなきゃ!という時期を終えて、もう少し女性として余白のある表現をしたいと思うようになったんです」。コンセプトにしたのは、「求愛」。「agrisの最初のコレクションが求愛ダンスだったんです。体の一部をビビッドな色に変えたり、美しい羽を広げて踊ったりする動物や体に色彩を塗り、華やかな装いをする部族の姿に、愛情表現のために最初にするのが“おしゃれ”って、すごく素敵だなと思って。そのコンセプトがブランドや私のクリエーション全ての基本的な考え方につながっています」。

現在はこのコンセプトに基づき「ディアプロジェクト」という企画も断続的に行っている。たった一人の人のために作る服だ。「お仕事って、どんなに好きな職業でも、大変なことが8割くらいじゃないですか(笑)。それでも、好きな人のためなら頑張れる。スタッフも好きな人ばかりに意識的にしているし、“好きな人のための服を作る”というスタイルなら、ものすごいエネルギーを注ぎ込めると思ったんです」。もともと極度の人見知りだという鷺森さんは、あえて求愛というコンセプトを出すことで前に進める、ともいう。「大好きなこの人のための服を作る、というのが私の求愛ですが、求愛ってすごくストレートでロマンティック。この言葉のおかげで、お互いの垣根を一気に越えられるんです」。第1弾としてスタートした写真家、ヨシダナギさんのための服は、アフリカで着られる黒いドレス。アフリカで撮影を行うヨシダさんが、現地でも東京での日常の気分で着こなせる服を求めていたことから誕生した。またそんなヨシダさんが撮影したさまざまな民族の民族衣装やボディペイントが、今シーズンのコレクションのエッセンスとなっている。第2弾ではアカデミー賞授賞式の際の吉高由里子さんのドレスを手がけた。

ヨシダさんの写真を転写してデザインしたストール。

ヨシダさんの写真から構想を得てカットワークを施した、今シーズンのコレクションのブルゾン。

健康的な体と思想で作る、アンバランスなメッセージが、一番強い

以前は夜型だったという鷺森さん、最近は朝一番にデザインの仕事をするという。「クリエーションというものを考えた時、若い頃はネガティブなものを爆発させたり、繊細で感傷的なものを表現したりする方が、人の記憶に残りやすいし力強いので、そのパワーを使うことが多かった気がします。でも最近、もっと健康的な状態で作るクレイジーなものの方が、結局は強いメッセージを送れるんじゃないか、と思うようになって」。以来、常に健康的なライフスタイルを心がけている。朝のフレッシュな脳をデザインに使い、昼はコミュニケーションのための時間、そして夜はそれらを整理する時間。「夜はほぼ毎日、映画を見たり本を読んだりして“受け手”になる時間を作ります。そして2、3日お休みが取れたら、海に行ったり」。

この先、どんな未来を鷺森さんは見つめているのだろうか。「舞台衣装からスタートしている私にとって、服というのは着た瞬間、ストレスからも解放されて、パッと違う世界に飛び立つことができるもの。私の服でどんなトリップを提供できるか、そのことをいつも考えています。と同時に、この先はファッションデザインだけでなく、舞台美術や写真など、いろんな手法を習得したい。お店で見るだけじゃなく、いろんな場所で、心が揺さぶられる服だけではないデザインを体験していただけたらと思います」。

「求愛」をテーマに、エッセイストの紫原明子さんと作り上げた本「dintje」。

ディアプロジェクト第3弾では現代アーティストの小松美羽さんのための服を手がけている。

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  • ※掲載商品は定価表示となっております。

鷺森アグリ Aguri Sagimori

1985 年 大阪生まれ。2007 年 バンタンデザイン研究所卒業。同年、新人デザイナーファッション大賞優秀賞、ナゴヤファッションコンテスト2007グランプリを受賞。2008年「AGURI SAGIMORI」を立ち上げる。2016、「agris」として リスタート。 また[ abooks ]などファッションデザインに縛られず多様なクリエイション活動を行う。

Photographer/yOU
Writer/YURICO YOSHINO