The Essentials

古泉洋子の
「愛のある服しか欲しくない」

さまざまな雑誌で活躍するファッションエディターの古泉洋子さんが、 ワードローブに必要な「おしゃれの名品」を女性の生き方とともに綴るコラム。
今回は女らしさが薫る、エレガントなランジェリーついて取り上げます。

Photo:HAL KUZUYA

Vol.9 黒のランジェリーという艶

 「君はさ、いい女だと思うけど、一つだけ直したほうがいいと思うよ。早口は色気がないから」。どうして随分前に付き合ってた彼に時折指摘されていたことを、急に思い出したんだろう? 一瞬深呼吸して、英里はなにげなくパソコンを打つ手元を見つめた。あ、ネイルがはげている……。

 この10年いろんなことがあった。勤めていたテレビ局の広報を辞めて、退職金でニューヨークへ留学した。これといって目的があったわけでもなかったけれど、仕事を通じて出会った放送作家の夫と、たった1年の結婚生活にピリオドを打ったタイミングでもあったから。とにかく一度自分を見つめ直して、解き放たれたかった。31歳のあの時だったからできた決断だったかもしれない。2年くらい経って英語も日常会話くらいはできるようになった頃、あんなに元気だった母親が倒れた。少し歳の離れた兄はいたけれども、まだ手のかかる子供を抱えた義姉に母の介護を頼めるとも思えず、後ろ髪を引かれる思いで帰国した。時間が自由になることもあったし、そもそも興味があったライターの仕事を始めることになった。そして母の旅立ちを機に、今は仲の良かった同僚、陽子の紹介で少しずつ脚本の仕事を始めている。

 もちろん自分の能力に挑戦できる今の仕事にやりがいは感じている。けれど常に締め切りに追われ、せっかちにキーボードを打ち続ける状況はある種の中毒的状況に陥る。最近は仕事でも連絡はメールかラインがほとんどだけれど、たまに電話の相手が間の抜けた返答でもすれば、ついつい矢継ぎ早に用件だけを伝えてしまう。

 「英里、早口はエレガントじゃないよ」。またあの声が聞こえる。余裕は作らなければ生まれない。自分自身に手をかけることを忘れてまで、仕事に追われるなんてどうかしてる。明日、久しぶりにお気に入りの黒のランジェリーで出かけよう。指先に赤のネイルを塗って。女は単純だ。そんなことでも自分を取り戻せる。

【今回のおすすめ】
「アキコ オガワ」の
フレンチレース ランジェリー

 衣料にかける限られた予算のなかで、どうしても表に着る服が優先されてしまう。けれど見えない部分に投資をしているかどうか、ある年齢になるとなんとはなしに透けて見える。ヒールではなくスニーカーやフラットシューズが主役になっている昨今、ランジェリー選びにおいても“いかに楽か”が優先される状態だ。キャミソールとブラが一体化したデザインを始め、以前はスポーツブラと呼ばれたようなノンワイヤー、パッドレス、ホックレスの、とにかくつけ心地を重視したタイプが主流。そこにエフォートレスなデザイン性を加えたブラレットは、“女を忘れたわけじゃない”と、手抜きの言い訳もできることもあってか、人気を集めている。

 それでも時折ヒールを履いて緊張感を保ちたくなるように、究極にエレガントなランジェリーをまといたいと思うことがある。今回紹介する「アキコ オガワ」の上質なフレンチレースのランジェリーは、そんな気分にぴったりの逸品。パリ展やNYのコレクションにも参加し、テーラードジャケットやドレスなどスタイリッシュなウエアも手がけているデザイナーの小川彰子が、2016年春夏からスタートしたランジェリーコレクションのもの。“グローバルな女性のための上品でアグレッシブなランジェリー”がコンセプトで、ラグジュアリーラインの「プロヴォウケ」は黒レースにパールストラップという、ほかにないファッション性が魅力。身につけた瞬間、非日常へ誘ってくれる、そんな一着だ。

フランスレースのなかでも最高峰と言われる、カレーレースをふんだんに使用。ダブルパデットによる深い谷間を作り上げ、胸元を美しいアイラッシュレースが縁取る。

ホルターネックになっており、繊細なレースとパールビジューによるエレガントなバックスタイルが印象的。魅せブラとして、ウエアとのコンビネーションも楽しめるはず。

華奢なレース使いだがワイヤー入りでサイドはストレッチメッシュなので、安定感がある。フロントホック仕立て。

合わせるショーツはセクシーなタンガタイプ。サイドにあしらわれたパールビジューを取り外せば、シンプルなデザインとしても着用可能。

ブラ 46,000円(税抜)タンガ 26,000円(税抜)/ともにAKIKO OGAWA

AKIKO OGAWA. Lingerieはこちら AKIKO OGAWA.はこちら


  • ※掲載商品は定価表示となっております。
profile

古泉 洋子 Hiroko Koizumi

ファッションエディター。モード誌から女性誌まで幅広いターゲットの雑誌を中心に活躍。『Numero TOKYO』ではファッション・エディトリアル・ディレクターも務める。モードをリアルに落とし込むことを得意とし、著書に『この服でもう一度輝く』、『スタイルのある女は、脱・無難! 87 Fashion Tips』(講談社)。イタリアと育った街、金沢、そしてサッカーをこよなく愛する。
Instagram:@hiroko_giovanna_koizumi

Photo:Asa Sato(Fashion)