The Essentials

古泉洋子の
「愛のある服しか欲しくない」

さまざまな雑誌で活躍するファッションエディターの古泉洋子さんが、ワードローブに必要な「おしゃれの名品」を
女性の生き方とともに綴るコラム。
今回は晩夏に着たいTシャツについて取り上げます。

Photo:HAL KUZUYA

Vol.8 季節をつなぐ異素材Tシャツ

 甲子園の高校野球が閉幕すると、そろそろ夏の終わりを感じる。美保は高校時代、地元の仙台で野球部のマネージャーを務めていた。放課後になるとグラウンドに出て、泥々になって練習に励む選手たちのユニフォームを洗い、用具を整え、精神的にも支える役目。熱い思いを選手に託し、一緒になって戦う。ああいう一体感こそが、スポーツに関わる醍醐味と知った。だからあれから20年余り経って東京暮らしのほうが長くなっても、あのキラキラとした時間を愛おしみながら、毎年夏が来ると球児たちに思いを重ねている。この夏は秋田の代表校の快進撃に興奮し、勇気をもらい、そして涙した。

 意識をしているわけではないけれど、やはり同じ東北発信のものにはシンパシーが湧く。お茶を飲むためのティーポットを選ぶときも、おしゃれなカラーに色付けされた南部鉄器のポットが目に留まった。冬になれば昔から大好きな仙台の郷土料理、せり鍋を作るし、最近行ってみたいと思っている場所は酒田にある写真家、土門拳の記念館だ。

 東北は古くから繊維業も発達している地方なのだが、あの震災が思いがけずその底力を世に知らしめることになった。どこか優しい温もりを感じるツイードの風合いに惹かれた今日の服も、実は山形生まれだったのだ。夏の余韻と、秋めく高い空。二つの季節が織りなす、少し切ない時間にこの服はよく似合う。

 晩夏は、つくづく着る服に悩む。昼間の短時間はまだ太陽が夏の威力を放ち、夜になれば逆にぐっと気温が下がったりする。時折は台風の影響で日本特有の湿気を帯びて、東南アジアさながらの蒸し暑さが襲ってきたりもする。そんな現実は承知しながらも、気持ちだけはどこか秋に前のめり。今年は梅雨が短かったこともあり、6月あたりからずっと着ている夏服にも正直そろそろ飽きがきている。

 今回紹介する「コーヘン」は山形の老舗ニットメーカー、米富繊維のファクトリーブランドとして2010年秋冬にデビュー。複数の素材を独自の技術でクリエイションし、オリジナルなニットツイードを生み出した。唯一無二のムードを放つテキスタイルを使ったアイテムで、地方発信の新しいファッションビジネスの好例にもなっている。

 この異素材合わせのプルオーバーは、コットンをベースにしているので、袖を通した体感は夏に楽しんだTシャツそのもの。その脇や後ろ身頃に、このブランドのアイコンでもあるニットツイードをドッキングしている。ざっくりと編まれた多色使いのツイードのニュアンスが、前のめりな秋気分をさりげなく満たしてくれそう。前身頃の切り替え位置が絶妙で、視覚的にすっきり見えるようにできているのもうれしい。また袖口がフリンジ仕立てになっており、秋のトレンドのひとつ、フォークロアなムードも同時に楽しめる。

ベースの黒との調和を考えた、赤、紫、白を中心とした糸を編み込んで。袖口のフリンジが個性を感じさせる。襟元の仕上げもニット仕立てで、ディテールも大人のTシャツの表情。(※1)

ラグのようなざっくりとした編み地を縦横で切り替えてセット。センター部分をボックスプリーツにし、ボリュームをもたせている。タイトスカートやワイドパンツとも相性がいい。

色違いでホワイトも展開。ホワイトはぐっと爽やかな印象。パステルヤーンとの組み合わせでフェミニンさも感じられる。

こちらは定番人気の裾にフリンジを配したオリジナルTシャツ。腰が隠れるやや長め丈のAラインシルエットのTシャツは、細身のボトムとすっきりと着こなしたい。(※2)

Tシャツ(1)24,000円(税抜)(2)21,000円 (税抜)/ともにコーヘン

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  • ※掲載商品は定価表示となっております。
profile

古泉 洋子 Hiroko Koizumi

ファッションエディター。モード誌から女性誌まで幅広いターゲットの雑誌を中心に活躍。『Numero TOKYO』ではファッション・エディトリアル・ディレクターも務める。モードをリアルに落とし込むことを得意とし、著書に『この服でもう一度輝く』、『スタイルのある女は、脱・無難! 87 Fashion Tips』(講談社)。イタリアと育った街、金沢、そしてサッカーをこよなく愛する。
Instagram:@hiroko_giovanna_koizumi

Photo:Asa Sato(Fashion)