The Essentials

古泉洋子の
「愛のある服しか欲しくない」

さまざまな雑誌で活躍するファッションエディターの古泉洋子さんが、ワードローブに必要な「おしゃれの名品」を
女性の生き方とともに綴るコラム。
今回は夏のおしゃれ小物、帽子について取り上げます。

Photo:HAL KUZUYA

Vol.7 解き放つ帽子

 被っては取り、被っては取りを繰り返して、雅美はもう10分以上、玄関脇の鏡の前にいる。元来の几帳面な性格ゆえ時間の余裕を持って準備していたものの、さすがにそろそろ家を出ないと待ち合わせに遅刻する。原因は帽子だ。ショップの数多あるデザインのなかから“絶対に悪目立ちしない”ことを条件に、吟味し尽くして選んだ帽子は 結局今日も太陽の光を跳ね返すチャンスを失った。

 こんなことももう10回は繰り返しただろうか。ティーンエージャーの頃、母親でさえ「雅美は石橋を叩き壊してから渡るのよね」と呆れていた完璧主義ゆえの慎重さは、35歳を過ぎた今も変わらない。本来はそんな壁からは飛び立つべき20代に機を逸し、若くはない年齢になって、むしろまたひどくなっているようにも思う。大学の講師という堅めの職業の環境的な難しさもユルくなれない要因を作っている。

 もう分かってはいるのだ。雅美が帽子を被っているかいないかを、誰も気にしてなんかいない。そこにあるのは自意識という名の、重くて厄介な存在だということを。けれど例えば、今日待ち合わせした高校の同級生の美春が、「どうしたの? 雅美、帽子なんか被っちゃって、今日は随分おしゃれしてない?」などと冷やかし気味に言おうものなら「やっぱり頑張っちゃってる感が出ていたのだろうか」と居心地の悪い思いで、すぐさま帽子をとってしまうだろう。

 街を行く人を見渡せば、今は帽子のおしゃれなんて当たり前だ。老若男女、思い思いのデザインで個性を演出している。実際、冬に手袋で寒さを防ぐように、あの強い夏の日差しから身を守る道具は必要。ならば帽子がおしゃれな装飾品である感覚をいったん忘れよう。そしてまずは日常ではない旅先で試してみよう。繰り返し試して、意識せず被ることができるようになったとき、おしゃれの上達と同時に得られるのは格別の“自由”。たったひとつの帽子が、まだ見ぬ世界へと誘ってくれる。

【今回のおすすめ】
「チサキ」の
折り畳めるハット

 大人の女性の夏の日差し対策は、日傘派と帽子派の二派に分かれる。個人的には日傘の多くはレース使いのフェミニンなデザインで、シンプル&モードなマイスタイルに合うものがないことと、日傘を差す佇まいのクラシカルさに抵抗があり、断然帽子派だ。けれどファッションを仕事とする私でも、ごく自然に被ることができる=似合う帽子はなかなか見つからない。

 今回紹介する「チサキ」は日本人デザイナー、苣木(ちさき)紀子が2016年に立ち上げた帽子ブランド。苣木氏は偶然教わった一つのベレー帽作りから繊細な世界に惹かれ、帽子作りの道へ。12年間企業で帽子デザイナーとして従事した後、独立したという経歴の持ち主。

 女性らしさのなかに、ひとクセあるソフトなフォルムが印象的。折り畳めるデザインも多く、持ち運びにも便利な機能性も考えられている。また色や形などデザインのバリエーションも豊富なので、顔型に合わせて選ぶことができるのもうれしい。この折り畳めるハット“SARYU”はツバが狭く、頭をコンパクトに見せることができる。メンズライク過ぎず、かといって甘すぎることもない、初心者でも被りやすいデザインだ。

フラットに折り畳むことができ、バッグのなかにも収納できるサイズに。型崩れを気にせず持ち運べる。ナチュラルなブラウン(※1)は、どんな服にも合わせやすい。

ブラウンの表のリボンはシックなグレーだが、内側は鮮やかなターコイズブルー。サイズを調整できるようにゴムが添えられている。留め具のパーツにもこだわりが感じられる。

このモデルの他のカラーバリエーションは、右からブラック、パナマ(白)、グレー。それぞれブラウン同様、外側はシック、内側はポップなリボン使いがおしゃれ(※1)。

こちらは折り畳むことはできないが、上質で軽やかなハット“NIUM”。ピンクベージュとネイビーの色使い、細かなステッチ、華奢なリボンなど洗練されたデザイン(※2)。

(1)19,500円 (税抜)(2)33,000円(税抜)/ともにチサキ

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  • ※掲載商品は定価表示となっております。
profile

古泉 洋子 Hiroko Koizumi

ファッションエディター。モード誌から女性誌まで幅広いターゲットの雑誌を中心に活躍。『Numero TOKYO』ではファッション・エディトリアル・ディレクターも務める。モードをリアルに落とし込むことを得意とし、著書に『この服でもう一度輝く』、『スタイルのある女は、脱・無難! 87 Fashion Tips』(講談社)。イタリアと育った街、金沢、そしてサッカーをこよなく愛する。
Instagram:@hiroko_giovanna_koizumi

Photo:Asa Sato(Fashion)