The Essentials

古泉洋子の
「愛のある服しか欲しくない」

さまざまな雑誌で活躍するファッションエディターの古泉洋子さんが、ワードローブに必要な「おしゃれの名品」を
女性の生き方とともに綴るコラム。
今回はシンプルながら新鮮な表情のパンツについて取り上げます。

Photo:HAL KUZUYA

Vol.6  郷愁のリネンパンツ

  80年代。北イタリアの小さな街。映画『君の名前で僕を呼んで』を観終わって、祥子はしばらく席を立てずにいた。引き出しの奥のほうにしまいこんでいた、あの夏の記憶が突然堰を切ったように胸に溢れ出してきて、懐かしいとか切ないとか、この感情を的確に表現にできるような言葉が思いつかず、呆然としている。

  祥子は15歳のときに1年ほどイタリアへ短期留学をした。ミラノの中心地から1時間ほど離れたクレーマという街でホームステイをしながら。その家にはヴァイオリンの工房を営む優しいパーパと豪快なマンマ、そして祥子より2歳年上の少年、ヴィットリオが暮らしていた。たぶんテレビか映画で観たのだろう。少し大人びていた祥子は幼い頃から漠然と憧れる大人の女性像があって、それがソフィア・ローレンだったのだ。グラマラスで情熱的に見えて、どこか骨太でからっと乾いた印象の女。そんなこともあって、親からも勧められていた海外留学の行き先に、迷わずイタリアを選んだ。

 クレーマでの暮らしにも慣れてきた頃、マンマから「ヴィットリオ、祥子にミラノを案内してきなさい」と促され、二人きりで出かけることになった。街中を走るトラムでいくつかの名所を周り、夕暮れ時、ドゥオーモの屋上へと登る階段で自然と手と手が重なり合った。それからお互い意識しながらも、わざとそっけない態度をとったりして、若い恋の駆け引きを楽しんだ。帰国する日、マンマに隠れて交わしたキスを生涯忘れることはないだろう。

 あれから30年近くが過ぎ、祥子は結婚し、子供にも恵まれた。年齢とともに環境は変わったけれど、あのイタリアでの甘酸っぱい記憶とともに、相変わらず大らかなイタリア女に憧れ続けている。そろそろ、日差しが眩しい夏がやってくる。リネン特有のシワも楽しみながらマンマがよく履いていたようなワイドパンツを、祥子は今日もまたクローゼットのなかから取り出す。

 今、かっこよく見える女性の半分以上は、パンツのおしゃれをしているといっても言い過ぎではないと思う。アクティブに働く女性にとって、やっぱりスカートより、パンツが断然動きやすい。特に最近はいわゆるクロップト丈の定番のすっきりシルエットから、ワイドやハイウエストなど新鮮なデザインも増えてきた。

 以前より有名ブランドのファクトリーによる、ひとつのアイテムに特化したブランドが多いのがイタリア。今回紹介する「ベルウィッチ」も、イタリア・プーリア州で1975年に創業した会社によるパンツ専業ブランドだ。ブランドのスタートは2007年。パーツに至るまで100%メイドインイタリーにこだわっているのに、価格は比較的抑えめ。日本に本格上陸したのはここ数年だが、目利きの女性たちの間でじわじわと人気が高まっている。

 テーパードの細身シルエットを始め、トレンドをさりげなく加味した多彩なデザインがラインナップされているが、夏に楽しみたいのはなんと言ってもリネン。素材の持ち味を生かしたワイドフレアパンツ(※1)は、腰回りのボリュームを抑え、逆に裾に広がりを持たせることで、視覚的にもすっきり見えるようにデザインされている。白いTシャツに合わせるだけでも、きっとシンプルで高見えすると思えるのは、やはり素材と計算されたシルエットによるもの。スポサンやスニーカーで抜け感を出して着こなしたい。

リネン特有のシワを楽しみつつ着こなしたいパンツは、センタープレス入りで縦のラインを強調してくれる。チョコレートのようなブラウンが洗練された印象で、晩夏にも楽しめるカラーリングがうれしい。

ポケット、ウエスト周りのベルトのほか、裏側のステッチ使いまで、メンズも手がけるブランドだからこその丁寧な仕上げが光る。ワンタック入りなので、裾に向けて自然なシルエットの流れが生まれる。

ワイドシルエットのバリエーションとして、脚長効果も期待できる旬なハイウエストのチノパンツ(※2)もおすすめ。内側に向かって入れたツータックがすっきり見えのポイント。トップをインにして着て欲しい。

同じリネン素材を細身のテーパードにし、ドローストリングでスポーティさを演出したパンツ(※3)や、手描き風ストライプのしなやかなワイドカプリパンツ(※4)も夏らしく爽やか。

パンツ(1)29,000円(税抜)(2)24,000円(税抜)(3)24,000円(税抜)(4)33,000円(税抜)/すべてべルウィッチ

ブランド一覧を見る


  • ※掲載商品は定価表示となっております。
profile

古泉 洋子 Hiroko Koizumi

ファッションエディター。モード誌から女性誌まで幅広いターゲットの雑誌を中心に活躍。『Numero TOKYO』ではファッション・エディトリアル・ディレクターも務める。モードをリアルに落とし込むことを得意とし、著書に『この服でもう一度輝く』、『スタイルのある女は、脱・無難! 87 Fashion Tips』(講談社)。イタリアと育った街、金沢、そしてサッカーをこよなく愛する。
Instagram:@hiroko_giovanna_koizumi

Photo:Asa Sato(Fashion)