The Essentials
古泉洋子の
「愛のある服しか欲しくない」
さまざまな雑誌で活躍するファッションエディターの古泉洋子さんが、ワードローブに必要な「おしゃれの名品」を
女性の生き方とともに綴るコラム。
夏に向けて便利なストールについて取り上げます。
Photo:HAL KUZUYA
Vol.4 響き合うストール
この春、娘の亜里香が高校に入学した。彼女が生まれてから、思えば長いような、短いような月日が流れた。
当時ジュエリーメーカーにバイヤーとして就職して、ようやく仕事におもしろさを感じ始めていた圭子は、買い付けのため、初めて海外出張を命じられた。2001年、ニューヨーク。デザイナーズジュエリーのアーティスティックな輝きに大いに刺激を受け、実りのある旅となるはずだった、あの歴史的な事件に遭遇するまでは。とにかく一刻も早く日本に帰りたい。訳も分からず駆けつけたJFK空港で不安がる圭子に、声をかけてくれたのが今の夫だった。半年後、気づけば亜里香を授かっていた。出会いには恵まれたが、社会的にも仕事との両立は難しく、キャリアはそこで途切れた。子育てでそれどころではなかったし、あの体験がトラウマというほどではないにせよ、数年間、率先して海外に旅に出る気分にもなれなかった。
そうして封印していたからなのか、亜里香に手がかからなくなってからというもの、圭子はまさに旅に誘われている状態。行き先は自分の心の声の赴くまま、直感でピンとくる場所を選ぶ。ここ数年間で出かけたのはリスボン、ウィーン、バリのウブド……どこか憂いのあるエキゾティックな雰囲気の土地ばかりだ。そして今、圭子はスリランカを旅している。これまでに感じたことのない、魂が浄化されるような場所だと思う。しっとりと濡れた緑のなかに佇む、建築家ジェフリー・バワの邸宅。リビングでお気に入りのストールをまとい、読みかけの本を手にする。懐かしさと静寂に包まれて、自分が好きな世界を深める幸せに浸っている。
【今回のおすすめ】
「ターラ ブランカ」の
手刺繍ストール
すっかり初夏の日差しを感じる季節になり、半袖やノースリーブで過ごすことも多くなった。Tシャツやワンピース1枚で心許ないときに、ふわっとストールを羽織るとぐっと華やぐ。大判のストールなら広げてケープのように、細長いタイプなら緩やかに首に巻いてアクセントにできる。寒さをしのぐ秋冬の用途とは違い、春夏に使うストールはアクセサリー的な役割が強い。それは時には服以上に印象を左右するほど。うれしいのは似合う似合わない、着られる着られないというような現実に縛られない点だ。色や図柄、質感など、とことん自分の好みを投影できる。
この「ターラ・ブランカ」は、そんな自分らしさを妥協したくない大人のためのストールブランドだ。設立から15年、インドのカシミール地方の伝統的な職人技を日本の感性で仕上げた芸術的なストールは、上質を知るファッション通の間で静かな人気を博してきた。提携しているショール工房は100年の歴史を持つ老舗。カシミヤ山羊の柔らかな毛を手織りした素材に、マハラジャの身を飾り、ヨーロッパの上流階級の人々が愛したと言われる、伝統あるカシミールの手刺繍を施している。
春夏の新作“BLUE JANGLE”は繊細なシルクウールに、鳥や花など多彩な柄をミックスした図柄(※1)。ベースのライトベージュと鮮やかなブルーの刺繍が美しく調和し、肌触り、顔映りとも申し分ない。いつもの服に合わせれば、どこかドラマティックなエフェクトを加えてくれることだろう。母の日のギフトとしても、きっと喜ばれるに違いない。
カシミール地方の豊かな自然にインスパイアされた伝統技術、アリー刺繍。細いかぎ針で下から糸をすくって刺繍する。円を描くように、色を変えながら一針一針刺繍しているそう。
シルクウールを使ったストールは、肌理の細かい素材をみれば質の高さが伝わるはず。どのストールも素材のクオリティにこだわり、季節を問わず楽しめるのもうれしい。
一度手にするとコレクションしたくなるほど、色柄のバリエーションが豊富。オフホワイトのシアーな素材に大人っぽい花の図柄を、ブルーの糸でアリー刺繍した涼しげな一枚(※2)。
こちらも春夏の新作。イタリア・ローマに陽気に咲き誇る花々を刺繍した“ROMAN FLOWERS”。赤や黄色の差し色が夏にぴったりな、明るいムードを感じさせて(※3)。
ストール(1)61.5cm×200cm 120,000円(税抜)、(2)59cm×195cm 100,000円(税抜)、(3) 61.5×200cm 110,000円(税抜) /すべてターラ・ブランカ
※掲載商品は定価表示となっております。

古泉 洋子 Hiroko Koizumi
ファッションエディター。モード誌から女性誌まで幅広いターゲットの雑誌を中心に活躍。『Numero TOKYO』ではファッション・エディトリアル・ディレクターも務める。モードをリアルに落とし込むことを得意とし、著書に『この服でもう一度輝く』、『スタイルのある女は、脱・無難! 87 Fashion Tips』(講談社)。イタリアと育った街、金沢、そしてサッカーをこよなく愛する。
Instagram:@hiroko_giovanna_koizumi
Photo:Asa Sato(Fashion)
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