The Essentials

古泉洋子の
「愛のある服しか欲しくない」

さまざまな雑誌で活躍するファッションエディターの古泉洋子さんが、ワードローブに必要な「おしゃれの名品」を
女性の生き方とともに綴るコラム。
今回は新しい季節を感じる白シャツについて取り上げます。

Photo:HAL KUZUYA

Vol.3 気づきの白シャツ

 今年は春の訪れが少し早い。いつもの散歩コース、鴨川の半木の道あたりの桜も、そろそろ満開を迎える頃だろうか。

 美里が東京と京都を往復するデュアルライフを始めて、かれこれ2年が過ぎた。美大を卒業後、東京で輸入インテリアを扱う会社に就職し、しばらく経って花形といわれる広報へ異動を命じられた。テレビ局や雑誌社と地道にコネクションをつくり、PRマネージャーという肩書きを得るまでになったけれど、仕事の華やかさとは裏腹に、現場からどんどん離れていくことに違和感を覚えた。もともと派手なことはそんなに好きじゃなかったし、基本、職人肌なのだと思う。「10年を区切りにしたい」と上司に辞意を伝えると、「契約でいいから続けてくれないか」と言われ、流れに乗った。

 なぜなら、美里には秘かに温めていたプランがあったから。仕事のリサーチで訪れたセンスのいい雑貨を扱う店で、イタリアの陶芸家、クリスチャンヌ・ペロションの繊細な淡いピンクの器に一目惚れし、会社勤めの息抜きとして隔週で陶芸教室に通っていたのだ。先生に「筋がいいから、自分で作ってみるのもいいんじゃない?」と腕を褒められ、まんざらでもなかった。トスカーナの丘のアトリエでゆったりと作品作りに励むペロションのように、私も好きな京都にも拠点をおいて器作りに没頭したい。あっという間に、その夢は動き出し、少しずつではあるけれど評価をもらえるようになった。

  半分京都暮らしをするようになって、服の趣味も変わったように思う。この街には脈々とした歴史に根付いた掟があって、それが少し窮屈なときもあるけれど、逆にその守るべきマナーが背筋をまっすぐ伸ばしてくれる。なんというか、朝起きたてに一杯の水を飲んだときに感じる浄化の作用に似ている。仕事のスタンスが変わったこともあるけれど、東京にいるときは忘れている静かで“はんなりとした”おしゃれがむしろ心地いい。

 そうだ、明日はあの白いシャツを着よう。角を丸く仕立てた小さな襟と、ボタンを隠した比翼の前立てが、慎ましくも美しい服。品がいい、目には見えないけれど何より大切なこと。今の丁寧な暮らしがそう教えてくれた。

 白シャツにこんなにも振り幅があるのかと思わせてくれたのが、今回紹介する「オールドイングランド」の定番、ブロードシャツ。一般的な白シャツのイメージは、清潔感がある、凛とした、端正、知的というきりりとした印象がクローズアップされがち。けれどこのシャツには、それだけに止まらない大和撫子的な奥ゆかしさを含んでいる。

 ボタンも隠した比翼仕立てがミニマムでありながら、細番手の糸で織られたシルクブレンドのコットン素材がクールすぎない繊細な軽やかさを醸し出す。さらにステッチを表に出さないディテールが、優しい雰囲気。襟を立ててカッコよく着るのではなく、第一ボタンまで止めて淑女のように着るのがいい。オンタイムならジャケットのインにも控えめで合わせやすい。

 イギリスの正統的なスタイルにフランスのさりげなさを加え、1867年にパリで創設された「オールドイングランド」。伝統を大切にしながら、フレッシュな感性で仕上げられるスタイルの象徴として、この端正で優しい白シャツを推したい。

角を丸く仕上げ、内縫いで仕上げたラウンドカラーが、清楚な雰囲気を漂わせる。比翼の幅も狭めで、ステッチ、ボタンなどディテールを極力隠したデザインが、控えめながら好印象を残す。

身頃にさりげなく刺繍された、「オールドイングランド」のクレスト(紋章)ロゴも、特別感を漂わせる。シルクを10%加えたコットン素材が放つ上品なツヤも魅力。さらりとした肌触りもいい。

襟同様に丸いカーブを描く袖口のカフス。
スリット部分のボタンは黒で、「OLD ENGLAND PARIS」の文字が記されている。細かいディテールのこだわりにも愛着がわく。

同モデルの素材・柄バリエーションとして、ギンガムチェックもおすすめ。こちらはソメロス社のコットン100%。素材違いでブルーも展開。

シルクコットンブロードシャツ¥27,000
ギンガムチェックシャツ¥27,000
/すべてオールドイングランド

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profile

古泉 洋子 Hiroko Koizumi

ファッションエディター。モード誌から女性誌まで幅広いターゲットの雑誌を中心に活躍。『Numero TOKYO』ではファッション・エディトリアル・ディレクターも務める。モードをリアルに落とし込むことを得意とし、著書に『この服でもう一度輝く』、『スタイルのある女は、脱・無難! 87 Fashion Tips』(講談社)。イタリアと育った街、金沢、そしてサッカーをこよなく愛する。
Instagram:@hiroko_giovanna_koizumi

Photo:Asa Sato(Fashion)