The Essentials

古泉洋子の
「愛のある服しか欲しくない」

さまざまな雑誌で活躍するファッションエディターの古泉洋子さんが、ワードローブに必要な「おしゃれの名品」を
女性の生き方とともに綴るコラム。
今回はおしゃれのマンネリ打破に効く、赤いニットについて取り上げます。

Photo:HAL KUZUYA

Vol.2 試される赤いニット

 猫が苦手だ。嫌いというのとは少し違う。どちらかといえば怖いというほうが近い感情かもしれない。別に子供の頃に痛い目に合ったというような、トラウマがあるわけでもないけれど、綾子にとって猫は、いわば“天敵”。

 昨日も駅への道すがら、一匹の猫が物陰から威嚇するようにじっとこちらを見据えていた。「シィッ、シィッ」と遠くへ行くよう促してもビクともしない。とにかく近寄って来られては困るし、かといって、このままにらみ合っていては会社に遅刻する。行きつ戻りつ、何度かの応酬を経て、ようやく前に進むことを許された。

 薄々わかってはいる。苦手なのは猫そのものじゃなく、猫的なものなのだと。綾子自身は完全な犬キャラだ。ご主人さまに尽くすし、与えられた仕事は一生懸命こなす、単純でわかりやすい性格。だからなのか、気がつくと真逆の猫的な女性が傍にいる。学生時代からの親友、美希に、新卒で入ったレコード会社の同期、亜子。それから今の勤めている広告代理店のボスだってそうだ。彼女たちは一様に自由で、自己中心。気ままに綾子を翻弄する。

 「いい加減にして!」「ズルい」と、怒りや嫉妬の感情が芽生えることがないといえば嘘になる。でも、もう認めよう。苦手と言いながら、心の奥底では猫的なものに憧れがあるということを。彼女たちは一様に美人で華やか。そして魅力を倍増させるように映える服を選び、人を惹きつける力がある。一緒にいると無意識のうちに、綾子は一歩引く癖ができてしまい、存在を消すような地味な服ばかりを選んでいたような気がする。

 もう随分前に観たのに、ずっと頭から離れない、なりたいイメージがある。映画マニアだった昔の彼に薦められたロードムービー『パリ、テキサス』に出てくる猫のような女優。アクセサリーで着飾っているわけではないのに、少しの素肌を背中から覗かせた赤いニット姿に心を奪われた。あの頃は派手かも……と躊躇し、試す機会を逸したままの赤いニットを、たぶん今なら、自然に、私らしく着こなせる気がする。

 日本の平均的なライフスタイルのなかで、もっとも活躍するアイテムはニットのプルオーバーだと思う。ジャケットを着なくてはならないような厳格な職種以外、仕事でも、気軽なビストロに行くにも、休日の散歩でも、ニットのプルオーバーさえあれば事足りる。伸縮性があるので疲れないし、上質なものを選べばカジュアルになりすぎることもない。

 私たちのスタイルの核をなすアイテムなのに、これまでクオリティと価格のバランスが取れた、満足のいく一枚になかなか出合えなかった。

 今回紹介する「スローン」はニット専門ブランド。“自分たちが着ていて、心地よいものを作りたい”というシンプルな思いから、2016年秋冬に誕生したばかり。細かいニュアンスを作り手にダイレクトに伝え、完成度を高めたいと日本で生産している。

 スタート当初から「これ、私たちが欲しかったもの!」と、おしゃれにこだわるファッション誌の編集者やスタイリストが大人買いしていることでも、ツボを心得たものであることはわかるだろう。当然私もリピーターだ。

 ファースト・スローンとして手にして欲しいのは、シンプルなコットンニットのプルオーバー。ディテールのバランスへのきめ細かい配慮、しなやかな肌触りに一度袖を通せば手放せなくなるはず。イタリア製の上質糸による美しい発色を楽しめる赤は、顔映りもいい。

上品な肌見せで抜け感を出せる、絶妙の深さのV開き。細めのリブなので繊細な印象に。ストデパではクルーネックの半袖、Vネックのカーディガンも展開。カラーはネイビーとブラックも。

細番手の糸で編まれたハイゲージニットは、きちんと感を演出。天竺編みアイテムの後ろ身頃に配された、直線の袋編みが「スローン」のアイコン。アピールのさりげなさも気が効いている。

長めの着丈も大人にはうれしい気配り。この商品のストデパでの取り扱いは、2〜4の3サイズ。大きめを選んでリラックス感を、ジャストサイズで凛とした雰囲気にと、サイズ選びで印象も変化する。

赤のニットのバリエーションとしては、レディライクなクルーネックの半袖とスポーティーな襟付きのスキッパーを展開。このほかストデパではグリーンやピンクのシルクリブニットも扱う。

ニットプルオーバー(長袖・Vネック)¥20,000
(半袖・クルーネック)¥17,000
(半袖・襟付き)¥21,000
/すべてスローン

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profile

古泉 洋子 Hiroko Koizumi

ファッションエディター。モード誌から女性誌まで幅広いターゲットの雑誌を中心に活躍。『Numero TOKYO』ではファッション・エディトリアル・ディレクターも務める。モードをリアルに落とし込むことを得意とし、著書に『この服でもう一度輝く』、『スタイルのある女は、脱・無難! 87 Fashion Tips』(講談社)。イタリアと育った街、金沢、そしてサッカーをこよなく愛する。
Instagram:@hiroko_giovanna_koizumi

Photo:Asa Sato(Fashion)